第三回 「障害児と乗馬」
小林 紀雄
東京都鳥獣保護員
日本ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド・ソサエティ マスターインストラクター
私の携帯電話に一通のメールが入りました。「今度のアニマルセラピーを欠席します。」「え?」一瞬戸惑いました。実は私がしている事がアニマルセラピーだと思った事は一度も無かったのです。すぐに思い当たりました。
毎月一回身体障害者向けの乗馬会をやっています。参加者たちは、肢体不自由、知的障害、またいくつかの障害を併せ持つ重複障害:すなわち、自分の意思で自由に体を動かせない子供、車椅子にさえ真っ直ぐに座ることができない子供、骨の曲がっている子供、よだれを流し放しの子供、意思を伝える単語を発声できない子供たちです。
実施活動を始める前は、この子達を本当に楽しませることができるか、馬に親しませることができるか、不安でした。乗馬させる際、馬の引綱を担当する者1名、両サイドから人が馬から落ちないよう介助する者2名、側面からずれていないか看視し、常に両サイドの介助者に声を掛ける者1名で、今にも折れそうなくらい細い、冷たい足をマッサージしながら少しずつ開かせ、馬に乗せ、歩き始めます。体が小さく1人では乗れない子供には介助者と腹帯で結び、裸馬に乗ります。ここでいつも奇跡を見るのです。車椅子でもほとんど寝たままの子供が馬の歩行に合わせて、リズムやバランスを取り出すのです。それを見守るお父さんやお母さん方の顔も明るくなります。子供たちも笑顔になります。怖がって、怖がって、腹帯で介助者に結ばれて乗っていた子供は、強く目を閉じ緊張していたのに、暖かい裸馬の背の上でいつの間にか熟睡しています。
もう10年以上続いていますが、子供1人につき、沢山のボランティアが必要です。寒くなるとボランティアの数は少なくなります。育つ子供は育ちます。とても重くなっている子供もいれば終始いたずらを仕掛けてくる子供もいます。終われば皆、馬が好きになっており、馬も子供たちに馴染み、静かに触らせます。この活動のきっかけは一つのニュースでした。重度の障害児を持つ親が心身の疲労、子供の将来を悲観して、その子供を殺害した事に対する温情判決、そして無責任な同情の記事を目にしたのです。ちょっと待って!人間だぞ!生きた人間は感じる心を持っているのです。「自分は邪魔者だ、殺されても仕方がない者?」唯一の一番の味方であるはずの家族、しかも両親にいつ殺されるか分からない恐怖の中で生活しなければならない?彼らには抵抗する体力もないのに。このような事情に同情はしても、認めてはいけないし、誤解につながるような言葉にさえしてはなりません。
子供たちは皆、優しい気持ちになっているよ、親に、僕や私たちは皆孤立していないよと無言のメッセージを送りながら、馬と親しんでいます。親たちは子供たちの成長を共に楽しみ、子供たちに会えることをこんなに楽しみにしている人たちが、こんなに沢山いるんだよと話しかけます。馬も君たちを好きだと言っているよ、馬が喜ぶから首や顔を撫でながら大好きと言ってあげてと伝えます。誰もが親に愛されているのです。自分と親しい人が沢山いることや大好きな馬とも仲良くなれたことの満足感の中で過ごさせてあげたいのです。そしてお父さんやお母さんたちにはみんな一緒だよとメッセージを送り続けたいと願っています。これもヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド(HANB)教育の一つの実践と考えています。ボランティア体験希望者歓迎します。